山とミニマリズム

mountain & minimalism :断捨離からミニマリズムに、そして山へ目覚めた人の日常。

氷壁

氷壁 (新潮文庫)
ザイルは切れたのか? 切られたのか? 山岳小説の金字塔。
私が書評を書くまでもなく、この小説を論じ評する文章には枚挙にいとまがないので、今回はこの本から感じる北アルプスについて一考したい。

この小説の主人公はベテランの二人組で登山、登攀経験値は高く、おおよそ登山に経験のない読者に状況や難易度、上高地穂高の絶景を想像するのはなかなか難しいかもしれない。
反対にある程度の登山経験者ならば情景や心理を面白く楽しみながらページをめくっていったのではないだろうか。
小説家の腕の見せ所でもあるが、氷壁に限れば穂高の情景描写が美しく綴られ、まるでその場にいるようなという実感はなかった。それはやはり主人公が名のある登山者であったがために上高地穂高連峰への憧れではなく、穂高という場所に慣れた人として展開するためだろう。
自分自身登山を始めて上高地穂高連峰への憧れは登山を重ね、未踏峰の山々の山行計画を立てるために情報を集める度にますますその度合いは増していったと覚えている。
実際に最初に上高地に降り立ったのはまだ登山に興味もなくただ観光地としてのそれであり、また季節も雪残る時期だったこともあり、それほどの感動を覚えなかった。しいていえば枯れ木が立つ綺麗な川が流れ、見たことある橋(河童橋)があるといったごく平凡な感覚だった。その後新穂高温泉から(上高地の登山口ではなく岐阜県側からの登山口)奥穂高へ上り、眼下に広がる秋の涸沢カールを見下ろした時の情景はまざまざと瞼と心に刻まれるものであった。心理、状況が変わればこんなにも見え方が変わるものかと思ったものである。
今回、氷壁を読んで小説自体は素晴らしく読み応えがある作品だった。ただ山に登りたいという気持ちを湧き立たせる作品かというとそのジャンルとは少し違う。
今度は山に登りたくていてもたってもいられなくなるような、そんな読後感のある作品はないだろうか……。